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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)8700号 判決 1961年12月15日

原告 株式会社ミノリ 外一名

被告 高木一郎

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

当庁昭和三四年(モ)第一四〇二五号仮処分執行停止決定は、これを取り消す。

前項に限り仮りに執行できる。

事実

申立

(原告ら)

被告が大成建設株式会社に対する東京地方裁判所昭和三四年(ヨ)第一九四七号仮処分命令申請事件の仮処分判決正本にもとづき、昭和三四年八月一二日別紙物件目録記載の建物部分についてなした仮処分の執行は、これを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(被告)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

主張

(請求の原因)

一、被告は、昭和三四年八月一二日訴外大成建設株式会社(以下大成建設という)に対する東京地方裁判所昭和三四年(ヨ)第一九四七号仮処分命令申請事件の仮処分判決正本にもとづき、同裁判所執行吏をして別紙物件目録記載の建物部分、以下、本件建物部分という)について、大成建設の占有を解き、これを執行吏の保管に移し、現状不変更(但し、建築工事の続行は許す)を条件として大成建設の使用を許可する旨の仮処分を執行せしめた。

二、しかしながら、本件建物部分は、原告らにおいて昭和三四年八月一〇日以来大成建設とこれを共同占有していたものである。すなわち、大成建設は訴外和栄興業株式会社(以下、和栄興業という)から別紙物件目録記載の建物の建築工事を請け負い、これを施工していたものであり、原告ミノリは昭和三四年六月二六日和栄興業から右建物の一階及び二階のうち同目録添付図面の赤線(斜線)部分(本件建物部分を含む)を賃借していたものであるところ、大成建設の右工事がほゞ完成したので、同年八月一〇日和栄興業の諒解のもとに大成建設から直接本件建物部分を含む前記賃借部分の引渡を受けてその占有を始めたものである。また、原告五井工務店は、かねてより原告ミノリから本件建物部分の内部塗装、造作、設備等の工事を請け負つていたところ、原告ミノリが占有を開始した前記八月一〇日から右工事を施工して本件建物部分の占有を始めたものであり、大成建設もまた、前記の建築工事の残部を続行していたので、本件仮処分の執行当時、本件建物部分は原告らと大成建設がこれを共同占有していたものである。

三、もつとも、本件建物部分については、すでに昭和三四年七月四日被告の和栄興業に対する東京地方裁判所昭和三四年(ヨ)第三八七八号仮処分命令申請事件の仮処分命令(本件建物部分に対する和栄興業の占有を解いてこれを執行吏の保管に移し、現状不変更を条件として和栄興業にその使用を許すというもの)が執行されていたところ、被告は同年八月一二日本件仮処分の執行直前に右和栄興業に対する仮処分の執行点検を行わしめ、その際原告ミノリの本件建物部分に対する占有を右仮処分命令に違反するものとして排除せしめた(大成建設及原告五井工務店の占有は排除しなかつた)が、右仮処分命令の執行は左の理由により無効であつて、その執行点検の際に行われた占有排除は法律上の効果を生じないから、原告ミノリの本件建物部分に対する占有は本件仮処分の執行においても存続していたものである。すなわち、被告から和栄興業に対する前記の仮処分命令が執行された当時における本件建物部分の占有者は和栄興業ではなく、大成建設であつたにも拘らず、執行吏は和栄興業が占有しているものと誤認して右仮処分を執行したものであるから、右仮処分の執行は無効であり、したがつて、その執行点検の際に行われた前記の占有排除も無効である。仮りに無効ではないとしても、仮処分の執行が前記のごとく明らかに違法である場合には、その執行点検による占有排除の効果はこれを認めるべきでなく、本件においては、原告ミノリの占有は排除されなかつたものとすべきである。ちなみに、大成建設は右仮処分の執行に対して第三者異議の訴を提起すると共に、執行処分の取消を申請していたものである。

また、執行吏作成の昭和三四年八月一二日付各調書によれば、原告ミノリに対する前記の占有排除、和栄興業に対する仮処分の執行取消並びに本件仮処分の執行は右同日順次に行われたことになつているが、被告の和栄興業に対する仮処分の取消解放申請書は前日の八月一一日すでに執行吏役場に提出、受理されていたのであるから、右受理によつて直ちに執行取消の効果を生じたものであり、したがつて、翌一二日には右仮処分のための執行点検などはあり得ない筈であるから、この点においても前記の占有排除は違法であるといわなければならない。

四、仮りに前項の主張が容れられず、本件建物部分に対する原告ミノリの直接占有が認められないとしても、原告ミノリは、本件仮処分執行当時原告五井工務店を通じてこれを代理占有していたものである。すなわち、原告五井工務店は前記請負契約にもとづき本件建物部分の内部工事を施工する一方、右建物部分内において、原告ミノリの洋装店の開店準備の事務を代行していたのであるから、原告ミノリのためにも本件建物部分を占有していたものといわなければならない。なお、原告五井工務店は右の請負工事を約一ケ月間で完了し、爾来原告ミノリが洋装店を開業し、原告五井工務店は本件建物部分に机と電話を置き、連絡場所として使用しているが、店員は常駐せず、時々立ち寄る程度である。

五、仮りに、本件仮処分の執行当時原告らにおいて本件建物部分を占有していたことが認められないとしても、前記のとおり本件建物部分は、和栄興業から原告ミノリが賃借していたものであつて、その建築工事を施工していた大成建設から和栄興業の諒解のもとに直接その引渡を受けたものであるから、原告ミノリは所有権者たる大成建設又は和栄興業に代位して本件仮処分執行の不許を求める。

本件仮処分の執行当時本件建物部分は大成建設の所有に属していたものであるが、昭和三四年一一月三〇日和栄興業大成建設から右所有権の譲渡を受けてその所有者となつたものである。なお和栄興業が右の所有権取得の際本件仮処分が執行されている事実を承知していたものであることはこれを認める。

六、また、被告の和栄興業に対する仮処分執行当時被告主張のとおり和栄興業が本件建物部分を占有していたものとすれば、前記の執行解放の結果、執行吏は当然和栄興業に本件建物部分の占有を返還すべきものであるから、和栄興業は、本件建物部分に関して引渡を妨ぐべき権利を有するものである。よつて、原告ミノリは前記の賃借権にもとづき、和栄興業に代位して本件仮処分の執行不許を求める。

(被告の答弁)

一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項中、大成建設が本件建物の建築工事を施工していたことは認めるが、その余の点はすべて争う。被告は、原告らが請求原因第三項でいう執行点検の際、本件建物部分は大成建設と原告ミノリだけがこれを占有しているものであることを確認した(原告ミノリの現場責任者長沼正範もその旨を確言した)結果、原告らが同項で主張するごとき措置に出たものであつて、本件仮処分の執行当時原告五井工務店が本件建物部分を占有していなかつたことは疑いない。

仮りに、本件仮処分執行当時、原告ミノリが原告五井工務店に本件建物部分の内部工事をさせていたとしても、そのことによつて原告五井工務店に独立の占有を認めるべきものではない。また仮りに、同原告の占有を認めるとしても、同原告はすでに右工事の完了によつて本件建物部分に対する占有をうしなつているものであるから、原告五井工務店には訴の利益がない。

三、同第三項中、被告の和栄興業に対する仮処分執行の効力、右仮処分の執行点検による占有排除の効力、及び右仮処分の解放手続に関する原告らの主張はすべて争うが、その余の点は認める。

右仮処分の執行当時、本件建物部分は和栄興業がこれを占有していたものであるから、右仮処分の執行には何ら違法の点はないが、仮りに違法であるとしても、それが取り消されるまでは有効であるから、昭和三四年八月一二日の執行点検並びにその際行われた原告ミノリに対する占有排除はいずれも有効である。なお、被告は、右執行点検によつて本件建物部分に対する和栄興業の占有がなくなつていることを確認したので、右仮処分の執行を解放するため、同日現場において申請書を作成し、執行吏にこれを委任したものである。ちなみに、大成建設は、昭和三四年八月一八日右仮処分の執行に対して第三者異議の訴を提起し、執行処分の取消を申請したが、後にいずれもこれを取り下げた。

四、同第四項は争う。

五、同第五項中、原告ミノリが本件建物部分につき賃借権を有するとの点は不知、その余の事実は、本訴に関する限り、これを争わない仮りに、原告ミノリがその主張のごとき賃借権を有するものであるとしても、右賃借権をもつて被告に対抗できないから、原告らの主張は理由がない。

六、同第六項は争う。本件仮処分の執行当時には、すでに本件建物部分に対する和栄興業の占有は消滅し、和栄興業に代つて大成建設がこれを占有していたものであるから、原告らの主張は理由がない。

証拠関係<省略>

理由

一、昭和三四年八月一二日本件仮処分が執行されたことは、当事者間に争いがない。

二、原告らは、本件仮処分の執行当時本件建物部分は原告らにおいてこれを占有していたものである旨主張するので、以下右主張の当否について判断する。

(原告ミノリの占有の有無について)

本件仮処分の執行に先きだつて、被告から和栄興業に対する占有移転禁止の仮処分が執行されていて、昭和三四年八月一二日本件仮処分の執行前に、和栄興業に対する右仮処分にもとづく点検処分によつて原告ミノリの本件建物部分に対する占有が排除されたことは当事者間に争いがない。原告は和栄興業に対する仮処分の執行は債務者を誤認してなされたものであるから無効であり、無効でないとしても違法なものであるから、右の点検処分による占有の排除は法律上無効のものであると主張する。

仮処分は、その本質において多分に司法上の行政処分たる性格を有するものであるから、当該仮処分に重大且つ明白な瑕疵がある場合には、一般の行政処分の場合と同様にその執行はこれを無効とみる余地があるかも知れない(たとえば、債務者の占有にあらざること明白な建物に対して故らに現状変更禁止の仮処分を執行したる場合の如し)。

また、無効とみないまでも、かかる重大明白な瑕疵のある仮処分による点検排除処分はその効力を否定すべきものであるという見解も成り立つかも知れない(前例の場合に点検処分で真の占有者を建物から排除したる場合の如し)。

しかしながら、本件の場合についてこれを観ると、和栄興業に対する仮処分の執行当時、本件建物部分の占有者が原告主張のように仮りに和栄興業ではなく大成建設であつたとしても、弁論の全趣旨によれば、大成建設は和栄興業から本件建物の建築を請け負つた施工者で、和栄興業は二階のごく一部にあたる本件建物部分を除き、すでに一、二階全部の引渡をうけて現にこれを占有していたものであること明らかであつて、しかも、成立に争いのない甲第一号証によれば、右仮処分の執行当時本件建物部分について大成建設の排他的占有を認めるに足る特段の事情のなかつたことが推認される。しかも、かかる特段の事情のあつたことについては原告から具体的な主張が少しもないのであるから、和栄興業に対する前記仮処分の執行が仮りに真の占有者を誤認してなされたものでこの点に瑕疵があつたとしても、その瑕疵はこれを重大且つ明白なものとみる余地はない。そして、この程度の瑕疵を帯びた違法な仮処分の執行も、執行方法の異議や第三者異議の訴によつて排除されるまでは、依然として有効な執行処分とみなければならないこと勿論であるから、仮りに前記仮処分の執行が占有者を誤認してなされたものであるとしても、その執行点検による占有排除の効力を否定すべき理由はない。この点に関する原告の主張は採容できない。

また、原告は、右仮処分の執行については前記執行点検の行われた前日である昭和三四年八月一一日すでに被告の解放申請が執行吏に受理されているので、これにより執行取消の効果を生じていたものであるから、右の執行点検による原告ミノリに対する占有排除は無効であるというが、仮処分の執行は解放申請の受理によつて当然解放ないしは取消の効力が生ずるものではなく、執行吏が右申請にもとづいて現実に取消処分をした場合にはじめて取り消されることになるものであるから、右の主張はそれ自体失当である。のみならず、成立に争いのない乙第三号証及び甲第六、第七号証に徴すると被告は昭和三四年八月一二日右仮処分の執行取消を申請し、執行吏は前記の点検処分によつて原告ミノリの占有を排除した後に執行の取消解放をしたものであると認めるのが相当であるから、右主張も理由がない。

次に、原告ミノリは、原告五井工務店の占有を通じて本件建物部分を代理占有していたものである旨主張するが、後記のとおり、原告五井工務店の占有はこれを認めることができないので、代理占有関係の成立を認める余地もない。

(原告五井工務店の占有の有無について)

原告五井工務店は、原告ミノリとの請負契約にもとづき、本件建物部分の内部塗装、造作、設備等の工事を施工していたのであるから、同原告は本件建物部分の占有者であるというが、特別の事情につき何ら主張のない本件の場合においては、社会通念上、本件建物部分の事実的支配は専ら注文者たる原告ミノリにあつて、原告五井工務店は単に原告ミノリの占有補助者として工事を施工していたにすぎないものと認むべきであるから、原告らの主張は採容できない。

三、次に、原告ミノリは大成建設及び和栄興業に代位して本訴請求に及ぶ旨主張するので、その当否につき判断する。

(大成建設に代位する場合)

本件仮処分の執行当時、大成建設が本件建物部分の所有者であつたことは当事者間に争いのないところであるが、大成建設は本件仮処分の債務者であるから、その所有権にもとづいて本件仮処分の執行不許を求め得る立場にないこと明らかである。したがつて、原告の主張はすでにこの点において失当である。

(和栄興業に代位する場合)

和栄興業が本件仮処分執行後の昭和三四年一一月三〇日に大成建設から本件建物部分の所有権を譲り受けたものであることは当事者間に争いがなく、和栄興業が右所有権取得の際に本件仮処分執行の事実を知つていたものであることは原告の自認するところである。いわゆる現状変更禁止の仮処分が執行された後に目的不動産の所有権を取得した第三者がその所有権にもとづき第三者異議の訴を提起することができるかどうかは、右の仮処分が登記簿に記入されない建前になつていることともからんで、論議の余地がないわけではないが、仮りにこれを積極に解するとしても、本件の場合、和栄興業は仮処分の執行後における悪意の取得者であるから、その所有権にもとづいて本件仮処分の執行不許を求めることのできないことは、民事訴訟法第六五〇条第一項の趣旨からもはつきりとうかゞえるところであるから、この点に関する原告の主張も爾余の判断をなすまでもなく失当である。

また、原告ミノリは、被告から和栄興業に対する前記仮処分の執行当時、本件建物部分の占有者が被告のいうように和栄興業であつたとすれば、本件仮処分の執行前に右仮処分の執行が取り消された以上、本件建物部分に対する占有は和栄興業に回復されるべきものであるから、和栄興業は本件仮処分の執行に対してその不許を求め得る立場にある旨主張し賃借権にもとづき和栄興業に代位して本訴の請求をするという。しかしながら、占有権にもとづいて第三者異議の訴を提起し得る者は執行当時現に目的物件を占有している者に限られ、将来占有を取得し得べき地位にある者に及ばない。原告は仮処分の執行取消によつて和栄興業が本件建物部分の占有を現に回復したと主張しているのではなく、回復し得べき地位にあつたというにすぎない。しかも、成立に争のない甲第六、第七号証によれば、和栄興業に対する前記仮処分の執行取消と同時に大成建設に対する本件仮処分が執行されていて和栄興業が占有を取得ないしは回復する余地のなかつたことが明らかであるから、原告の右主張も失当である。

五、以上のとおり、原告らの本訴請求はいづれも理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条、第九三条、第五四九条、第五四八条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井良三 立岡安正 三好清一)

物件目録

東京都渋谷区神宮通一丁目一番地所在

一、鉄筋コンクリート地上八階地下三階建ビル

建坪 二百十二坪二合二勺

のうち二階の別紙図面青斜線(点線)部分

図面<省略>

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